第10章 ◆人の妖化
ー・・・妖力が強く、それを公にしていない
殆ど1人で生きている人間・・・。
『・・・っ。』
ゆっくりと船内を歩く3人。
さなは高さの違う
名取と夏目の肩をぼーっと見ながら
先程の名取の言葉を思い出していた。
ー・・・私が妖化の実験体として
的場さんに目をつけられているなら、
そもそも夏目先輩と名取さんは関係無い。
いざという時は・・・2人には逃げてもらって
「 さな。」
さなが頭の中で作戦を練っていると
不意に掛けられる呼び声に
その思考は一時停止をした。
『・・・?』
その声の人物、夏目へと視線を上げて
さなは続く言葉を待つ。
「 〝自分が犠牲になれば。〟
なんて、考えちゃ駄目だぞ。
いざという時でも。」
『へっ・・・。』
夏目の言葉は
さなの考えていた内容と全く同じで
思わずさなは固まった。
「 さなならきっと
自分が犠牲になる事でも考えてるんだろう
と思ったけど、
その反応を見るとやっぱり
図星だったんだな。」
いつの間にかさなの横を歩く夏目が
少し表情を緩ませてさなを見下ろす。
『えっ!・・・いや、
そんな事、思ってませ・・・ん。』
夏目のその姿につい
顔を背けてしまうさなは
なんとか強がるが、
語尾を濁らせてしまう。
「 ・・・俺なら、
そう考えてしまうんだ。」
『・・・え?』
しかし、夏目の声は優しく
ゆっくりと話し始める夏目へ
さなは自然とまた視線を向けていた。
「 俺のせいで関係の無い人を巻き込むなら
俺ひとりで何とか解決出来ないかって
まず、そうやって考えてしまう。
・・・きっと、さなも同じなんだろ?」
さなの見上げる夏目の表情は柔らかく
優しく微笑まれるその姿にさなは
正直に頷く事しか出来なかった。
「 さならしいな。
・・・でも、今
俺はその関係の無い立場になって、
分かるんだ。
迷惑だとか、そういうモノの方が
関係ない。って。
大切な人を守るのに
理由は無いんだよ。」