第9章 ◆的場一門
後ろのさなを気にしながら
少しスピードをあげた夏目が
一気に駅までの道程を走る。
その手にはしっかりと
さなの右手が繋がれていて
握り返すさなの微弱な力を確認しながら
夏目は妖気の気配を察知できるよう
気を集中させていた。
その時
ーブォーーーーー・・・ン
まるで回りの音を全て飲み込むかのように
大音量の汽笛が鳴り響く。
「 っ?!」
「 わっ!
びっくりした・・・。」
その音にビクつかせる肩を抑えて
2人は無意識に走っていた足を止める。
「 船が、
出るみたいだ。」
そして、2人の視線の先
先程外覧していた豪華客船は
目を凝らして見ないと分からない程に
ゆっくりと動き
確実に出発していた。
「 うわぁ、凄い迫力・・・。」
「 そうだな・・・
でも・・・」
ー・・・何かおかしい、この船。
なんだろう、違和感というか・・・
何かが足りないような・・・。
「 どうしたんですか?先輩。」
夏目が考えていると
夏目の発した接続詞の続きが止まり
気になったさなが小さく催促する。
「 ・・・いや、
何か変じゃないか?この船。
何か、
違和感があるように見える・・・。」
「 ?・・・そうですか?
私は立派だと思いますよ。」
夏目の言葉を即否定し
ニコリと笑うさな。
しかし、
「 けど、
人が全く乗ってないですね。」
さなはサラッとそれを言った。
「 !!」
ー・・・そうだ、
豪華客船なんて謳っているのに
人が全然居ないんだ。
さっき見た時も
乗船している人は1人も居なかった・・・!
「 さな、逃げるぞ!
あの船から見つからないルートで行くんだ。」
「 えっ?ど、どうしてですか?」
何故気付かなかったんだと
夏目が後悔する中、
船が迫るのを避け
駅の反対方面へと走り抜ける2人。
ー・・・危険だ、あの船。