第9章 ◆的場一門
「えっ・・・?」
不意に握られるさなの右手。
その意図が分からずに
さなが隣を見上げると
そこには海に視線を向けたまま
目を細める夏目の姿で
「 俺から離れないで、さな。
・・・後ろから、何か来てる。」
「 っ?」
夏目の表情は真剣で
迫る何かを刺激しないよう
小声でさなに話す。
「 後ろは見ちゃダメだ。
・・・襲ってくる寸前に
躱して逃げるから。
合図したら俺に着いてきて。」
細めていた目を小さく後ろへ流した後
夏目は隣のさなへと向ける。
「 分かりました。」
夏目の言葉に応えるように小さく笑い
また小さく言葉を返すさなは
ぎゅっと夏目の手を握り返した。
ー・・・七瀬さんの式か、
的場さんの式か。
今背後から来るこの気配は妖物の類。
どちらにせよ手荒なのは間違いなく
海に囲まれた堤防の上で逃げる道は
背後の妖をかわして来た道を戻る
その一本しかない。
ニャンコ先生も不在な今
さなを守って切り抜けられるか・・・。
「 ・・・。」
ー・・・いや、
切り抜けないといけないんだ。
一体何処でさなの情報を掴んだのか、
さなに何をさせようというのか。
疑問点は多々あるものの
的場がさなに対して興味をもつのは
今までの的場の言動から
少しだけ理解が出来る。
「 ・・・っ!」
色々と頭の中でひしめき合ってる中
夏目は背後の気配が一気に強くなるのを感じた。
「 !」
その瞬間、夏目は
さなの手を強く握り振り返る。
「 っ・・・!」
夏目に手を引かれて
同じく振り返ったさなの目に映ったのは
先程まで水溜りだった影が
細長くゆらゆらと揺れる人影と変わり
ロープ片手に夏目とさなへ一目散に走り来る
衝撃的光景。
「 さなっ!今だ!」
「 えっ!は、はい・・・っ!」
その人影が手に持つロープを
頭上に挙げた瞬間、
夏目はさなへの掛け声を合図に
2人同時に走り出す。