第9章 ◆的場一門
「 おーい、ニャンコ先生ーっ!
何処だー?」
昼下がりの午後
ニャンコ先生を追って2人は
漁港に来たはいいものの、
ふてぶてしいその存在は何処にもおらず
声を上げて探していた。
「 先生ーっ
海鮮丼のお店行きますよー!」
・・・
「 はぁ・・・
これだけ呼びかけても
気配すらないってことは
ニャンコ先生、
ここには居ないみたいだな。」
「 ・・・そうみたいですね、
どうしましょう?」
違うところ、探してみますか?
そう付け加えて
夏目の顔を覗き込むさなに釣られ
夏目もさなの方へと目を向ける。
「 ・・・いや、疲れただろ?
只でさえ遠い所まで来たんだ、
少し休んでからにしよう。」
「 あ、はい。
・・・それなら、
あそこの堤防が気持ちよさそうですよ。」
夏目の言葉を素直に聞き入れたさなが
すぐそこの堤防を指差し夏目に微笑む。
「 そうだな。」
その無邪気なさなの姿に夏目も顔を綻ばせ
先を歩き始めるさなの後ろを
夏目はゆっくりと追った。
「 まぁ、
ニャンコ先生が居ないのも
悪くないよな。」
風に靡くさなの髪を自身で抑えながら
ゆっくり堤防を進む。そんな姿を見て
自然と零れる夏目のその言葉に
「 え?
何か言いましたか?」
ひょこっと振り返り
小さく首を傾げるさな。
「 いや、何でもないよ。
それより、
落ちないように気をつけるんだぞ。」
ニッコリと首を振り、
さなの隣に付く夏目がそっと
端を歩くさなを中央に誘導する。
「 ・・・。」
そのさり気ない気遣いに少しだけ
さなは頬を赤らめていた。
静かに風が吹き抜ける
見渡す限りの海の中で
2人が寄り添い歩く堤防。
時間さえも感じられない中で
その影も音も姿もなく
堤防の地面に小さな黒い水溜りを作って
静かに2人の背後へ迫っていた。
「 ・・・さな、
俺から離れないで。」