第9章 ◆的場一門
「 ・・・すみません、
送ってもらっちゃって。」
「 いいんだよ。
こちらも少し余所見をしたせいで
貴女にぶつかりそうになってしまった。
怪我が無くて良かったものの、
本当にごめんなさいね?
家に送り届けるくらいは、させてね。」
そうニッコリと笑う初老の女性に
さなも釣られて笑顔になった。
ー・・・事の発端は さなが学校から帰る際、
少し狭い道を歩いていたさなの背後から
猛スピードで走り来る黒いセダン車に
運転手の不注意によって
跳ね飛ばされる寸前だった。
運転手がさなの存在に気付き
急ブレーキをかけた為に
大事は無かったものの
あまりの勢いで
その場に尻餅をつくさなを見て
運転手である女性がさなを家まで送る
という事に至った。
「 あ、私のお家、
ここを右に曲がってすぐです。
・・・ここで大丈夫です、
とても助かりました。
ありがとうございます。」
「 え、いいのかい?
お家の人に挨拶でも・・・」
車で走行すること5分足らずで
さなが運転手の女性に降車を求めたが
女性は家まで届け、家族に挨拶をする気で
さなの言葉を遮る。
「 今日は誰も居ないんですよ、お家。
なので、ここで。」
女性の提案をやんわりと否定したさなは
ニコリと微笑んで
停められた車のドアに手をかける。
「 ・・・。
じゃあもし、
今回の事で何かあったら
ここに連絡しておいで。」
「 え?・・・あ、はい。」
さなが車のドアを少し開けた所で
運転手の女性に腕を捕まれその場に留まると
1枚の紙切れを手渡された。
その紙には電話番号が載っており
さながそれを確認すると
女性に向かって返事をする。
「 困ったことでも、何でもいいよ。
貴方には何かしてあげたいから、
相談でも乗るよ。」
「 はい・・・。」
そんな、さなに向かって
女性は奇妙なほど優しく微笑んだ。
「 そうそう、
私の名前は
・・・七瀬。
気をつけて帰りなよ。
危ないからね。」