第8章 ◆田沼ノ寺
夏が過ぎ、残暑も終わり
日照時間も短くなり肌寒くなってきた頃
平穏なこの集落にそれは突如起こった。
「何ッ?!
田沼の寺に泥棒ッ?!」
夏目のその叫びは放課後の無人教室に響いた。
「まぁまぁ、
そんな驚くなよ夏目。」
夏目のあまりの声の大きさに一瞬慌て、
なんとか笑って誤魔化す田沼が夏目を宥める。
「いや、驚くだろう!
で、盗まれたものは?」
この、平和の二文字しかないこの町で
そんな物騒なことが起こるとは
誰しもが予想もしないだろう。
夏目の目は必死で田沼の目を捉えて離さない。
「それが、盗まれた物…なんだが、」
田沼が気まずそうに笑い、語尾を濁らせる。
その時、締め切ってある教室の扉が
トントントンと規則正しくノックされ
ゆっくりと開かれた。
「 失礼します。
夏目先輩、一緒に帰…り……ッ?」
夏目と田沼の視線を集中させたのは
言うまでもなく、さなだった。
そして、さなの視界に映るは
夏目に肩を掴まれ真剣な眼差しを受けて
気まずそうに俯く男子高校生。
ー…もしかして、修羅場?
その光景がさなの言葉を途切れさせた。
そして、
「 ぁ、えーっと…
お…、お邪魔しました!」
そのまま、さなは勢い良く扉を閉め
踵を返す如くその場を立ち去ろうとする。
「ちょっちょ!!…待て、さな!」
明らかに誤解されている夏目と田沼は
扉が閉められた途端目を合わせ、
その場を飛び出してさなの後を追った。