第2章 黒猫は子猫を連れて
赤葦
先ほどから、藍蘭さんの姿が見えない。
仕事で忙しいのだろうか。
暑いから、具合を悪くしているのだろうか。
…何もなく、元気でいてくれているのだろうか。
先日のあの事から、
なんとなく距離ができてしまった。
彼女は話しかけてくれるが、自分自身が引いてしまっていた。
そうはいえど、目で追ってしまうのは事実だし、
話しかけてもらうと舞い上がってしまうのもまた事実だ。
「あか…あし、さん…」
背後から呼ばれ驚いたが、平然を装い振り返る。
音駒の、セッターさん。
名前は、弧爪 研磨…さん。
赤葦「どうかしましたか?」
弧爪「あの、クロ、見てませんか。」
赤葦「黒尾さんですか?見てませんね。」
弧爪「そうですか。試合終わったら、いなくなってて…」
なんとなく嫌な予感がした。
胸騒ぎがした。
彼女と、いるような気がして。
赤葦「見かけたら、声かけておきますね。」
そういうと、彼は頭を小さく下げ、離れていった。
見かけたら、なんていったがそんな気はない。
急ぎ足でその場を離れ、人がいないはずの方向へ向かった。