第4章 静かに見守るあの影は…
藍蘭
なんとなく、その場所に行ったら会える気がして。
あの日のように話せる気がして。
心のもやもやが晴れる気がして。
私は、廊下の角を曲がった。
あの時話したベンチにいたのは…
「藍蘭ちゃん、こんばんは。」
ひらひらと手を振り、挨拶したのは黒尾さん。
一番会いたくないひとにあってしまった。
黒尾「少し、話でもさ。」
藍蘭「みんなが、待っているので。」
小さく頭を下げて、前を通り過ぎようとした
その手を掴まれてしまった。
藍蘭「離して下さいっ」
頭に浮かんでくる。あの出来事が。
よくわからなかったけど、今思えば
怖いことだったと理解したから。
黒尾「待って、避けないで。」
藍蘭「別に、避けてなんかいません。」
黒尾「じゃあ、俺の目見て言ってよ。」
背後から聞こえる声音は、
とても優しいものだった。
黒尾「あんなこと、もうしないから。絶対に。」
言葉が出てこない。
彼の声音が優しすぎて、恐怖が残らなかった。
こんな簡単に、拍子抜けするほど簡単に、
気を許してしまっていいものか。
自分でも戸惑った。
黒尾「少しでいい。話を、ちゃんと謝りたい。」
彼の手に少しだけ力が入った気がした。