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もしもしカズナリくん。*短編集*

第1章 もしもカズナリくんが保健室の先生なら。


『でも…、言うかもしれないですよ?』


口をとんがらせながら言った。

クルクル回転する椅子に座ったのは、いざというときに背もたれで身を隠すため。

いざって例えば?って聞かれても答えられないけど。


『なんで?』
「先生が全然私のこと見てくれないから…腹いせでちくっちゃうかもです…」


私の声が尻すぼみになったのは、二宮先生との距離がぐっと近くなったから。

正面に回った、いつの間にか煙草を離した先生の両手が、私を挟んで椅子の背もたれにかかる。

せっかく見つけた隠れ家を横取りされたことよりも、先生の吐息が顔にかかるぐらい近い距離であることに気をとられた。


『腹いせねぇ……あれ? 咲田ちゃんって意外とワルイ子?』


私は、こんなに美しく笑う人を他に知らない。

緩やかなカーブを描いた口。
細くなる目。

そのひとつひとつから魔法を受けたみたいに、私は二宮先生から目を離せなくなる。


『でも、咲田ちゃんのことちゃーんと見えるよ? フワフワな髪してて、まんまるい目して、肌すっげぇ綺麗で、』
「そういうことじゃなくてっ」
『……この黄色いピアスは、俺が好きな色だから?』


二宮先生は私の耳元でユラユラと揺れていた小さな黄色いピアスに手をかけて、そのせいで耳にも僅かに先生の体温を感じる。

それだけで、ドキンってまるで心臓が跳ねそうで、頷くのが少し遅れた。


『ピアス、校則違反なんだけどなぁー……』
「……」
『俺のせいみたいじゃん』


みたい、じゃなくて先生のせい。


『……私がワルイ子なの、先生のせいですよ』
「あーまじかー」
『知ってるくせに』
「まいったなぁ」


悪びれもなくそう言って、
とりあえずこれは没収ね、って二宮先生が私からピアスを奪う。

デスクの引き出しにそれをしまいに行った二宮先生を横目にはぁっと一つため息。

案外高かったんだけどな。
女子高生のお財布事情考えると痛い出費だったんだけどな。

そうして萎える私だったけど


『……放課後、またおいで』


二宮先生のたった一言に息をふきかえす。


「……え?」
『ピアス。 返すから』
「あ……はいっ!!」


思わず小学生みたいなおっきな返事。

二宮先生がふはって笑い出すから、私も少しの恥ずかしさに肩をすぼめながら笑った。





-fin.-











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