第1章 もしもカズナリくんが保健室の先生なら。
休み時間を知らせるチャイムが鳴ったら、タッタッタ……、廊下にローファーが駆ける音が響く。
目的先へ一直線。
着いたときには息切れして、腰を曲げて膝に手をやれば、はぁはぁと荒い呼吸を何度か繰り返した。
'保健室'って木製のプレートがかかってるドアにかける手は汗で濡れている。
だけど、そんなことを気にしてる余裕なんて私にはなくて、気づいたときにはもう
「二宮先生、好きです!!」
何回目かの告白を仁王立ちでしていた。
・
『君が保健室を好きなことはよぉく分かったから』
これは先生のいつもの言葉。
そうじゃない、って何度も言ってるのに、いつになったら分かってくれるのか。
「好きなのは保健室じゃなくて!! 二宮先生です!!」
いつも言ってますけど!、私は言う。
コーヒーのニガい香りと共に二宮先生の口から吐き出されるのは、『ガキだねぇ』って言葉と、少しの嘲笑。
『オマエの青春ごっこに付き合わされる先生の気持ち考えてみ?』
オマエ、なんて、イマドキの教師が生徒相手に使うと思えない乱暴な言葉を二宮先生は簡単に使う。
『生徒に手を出すほどオンナに飢えてないし、そもそもロリコンなんかじゃねーしな俺』
「ロリコンて! 私、もう高校生です!」
『俺からしたら'まだ'高校生だよ』
コーヒーの次に二宮先生が手をつけたのは煙草。
白衣のポケットから、生徒の前でもお構いなしにライターと共に取り出した。
「……いいんですか、煙草」
『いいわけないじゃんねー。 見つかったら、やばいねぇ』
「やばいって全然思ってないでしょ」
『うん。だって、君絶対言わないじゃん』
「…なんで?」
『俺のことが好きだから』
元から答えは用意されていたように、二宮先生は即答した。
でしょ?って答えを確認されれば頷く他ない。
というか、さっきも言ったし。
満足気な微笑みと共に、煙は吐き出された。