第9章 この感情の名前を
「ハァハァハァ……」
「ハァ……ハァ……」
一進一退。互いに譲らないまま、勝負は夕方まで続いた。
「……お前、やるなァ」
「……お前もアル」
沖田が腕時計を見て、舌打ちをした。そして、神楽にビニール袋を投げた。
「……何アルカ?」
「時間でィ。俺ァ、もうすぐ帰らねェと土方さんに絞められまさァ。それはやるでィ」
「……」
神楽はビニール袋を見つめてから、沖田にスタスタと近付いてそれを押し付けた。
「……何でィ?」
「……いらないアル」
「……」
沖田は神楽を見つめた。
「……今度勝ったらおごってもらうアル。だから、それまではお預けネ」
神楽はにこりと笑った。
「だから、返すアル」
沖田は目をパチパチさせてから、ふっと笑った。
「……なるほどねィ。じゃァ、また今度にしまさァ」
「そうアル。じゃあ、私は帰るネ」
「あ、チャイナ」
沖田は神楽を呼び止めた。そして……神楽の夕陽色の髪の毛を触った。
「!?」
沖田の顔は……とても優しくて……。
神楽は顔を真っ赤にして沖田を突き飛ばし、一目散に逃げて帰った。
「……」
(俺は何をやってるんでィ)
ーー今の気持ちは……何だったのだろう?