第9章 この感情の名前を
「暑いアルナ〜」
神楽が酢昆布を咥えながら、歌舞伎町の町をぷらぷらと歩いている。今日も日課のお散歩だ。
「こうも暑いと干からびてしまうアルヨ……」
季節は7月の初旬。やっと梅雨が明けてくれたと思ったら、この暑さだ。やっていられない。
「酢昆布もふにゃふにゃしてて、美味しくないアル。あ〜、アイスが食べたいアル……」
「そんなにアイスが食べたいんですかィ?」
すると、後ろから声がした。
「げっ、サド」
後ろにはたぶん、仕事をサボっているのであろう沖田がアイスをくわえて立っていた。左手には脱いだ黒い隊服の上着を持っている。
「ほら、ここに……甘い甘いイチゴアイスの新作がありやすぜ?」
沖田は自分の目の前にビニール袋をぷらぷらさせた。
「く、くれ!」
神楽は一目散にそのアイスへ手を伸ばした。だが……。
「おっと」
沖田がアイスを闘牛士の赤いマントのようにひらりとさせた。
「な、何でくれないアルカ!? それは神楽様にあげるために買って来たんだロ!?」
「誰もそんなこと言ってねェでさァ」
沖田は相変わらず、ビニール袋をぷらぷらさせている。
「俺と勝負して勝ったら、あげてもいいでさァ」