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君がいた夏

第3章 譲れないマシュマロ【氷室辰也&紫原 敦】


「ねぇ、紫原君。私のどこが好きなの?」

すると紫原君はピタッと足を止めて私の方に振り向く。

「……それってさ、言葉にしなきゃわからない?」

なんともうざったそうにしている彼を見て私はすぐ後悔し、目を俯き謝る。

「…ごめんね。だって私、今まで男の子と付き合った事ないし、デブスだし、本当に紫原君が私の事好きなのか不安になっちゃって……!?」


タラタラと御託を並べる私を突然長い腕が包み、彼の胸元へ寄せられていた。勿論、私は赤面し心臓の音が煩くなる。


「あのさ、これでわからない?」

何となく伝えようとしているのはわかるんだけど折角だから言葉にして言ってもらいたくて、私はちょっと意地悪になる。

「…わからない」

「あーもう!わかったよ、恥ずかしいんだからあんま言わせないでよね」

「ありがとう」

溜息をついて面倒くさそうに彼は言うと、途端に彼は私に顔を近づけていつもとは違う真面目な口調になる。



「……ナナちんの事、一緒にいるうちに段々好きになってた。自分でも気が付かないうちにね」

「紫原君……」

普段とのギャップを感じて私の目頭が熱くなりながらも彼を見上げているといつの間にか私の視界が紫原君の顔でいっぱいになる。


そう、私はたった今彼にキスをされたのだ。
だって私の唇に彼の唇の感触を感じたのだから。


ただ突然すぎてしっかり目を見開いていると、いつの間にか紫原君がそっと私から離れていった。

「……もうこれでわかったっしょ?」

私をうざったそうに見るも素直じゃない彼の事だから何となくそんな反応する想像はついていた。
それに私に向けてもう一回精一杯気持ちを伝えてくれたのがなによりも嬉しくて顔がくしゃくしゃになる。

「う、うん!十分だよ!」

「じゃあ今度からはちゃんと目を閉じてね〜」

「はいはい。けど突然だったからつい忘れちゃったの」

急にいつもの子供っぽい口調になった彼を私は宥めると、彼はまた急に真面目な口調になる。

「あとさ、今度からは下の名前で呼んでよ」

お?やっと彼氏彼女らしくなったかも?
そう思いながら顔がまた綻び、呼び名を考えていた。

「…じゃあアツシ君、これからもよろしくね」

暗くてわからなかったけど天邪鬼な彼が素直に微笑んでくれた気がした。


紫原END fin.

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