第10章 第9セット
*岩泉side*
ー回想ー
及川徹は基本的にヘラヘラしている男だ。
でもソイツが笑わない時期があった。
人より体格に恵まれていた。
センスにも恵まれていた。
とくに中学に上がってからの及川の上達ぶりは群を抜いていた。
それでも
超えられない壁は常にあった。
“怪童”牛島若利を迎えて県内最強といわれるようになった
白鳥沢学園中等部
対戦すれば負けた。
1セットすら取れなかった。
もっと上へ、もっと高い舞台へ
阻まれ続けて中学3年。
今度は、背後に天才が現れた。
“影山飛雄”
そのセンスは圧倒的に輝いていた。
何よりボールに触れていることが嬉しくて仕方ない様子と、
それに伴っての、ボールの扱いの慣れ方が他とは段違いだった。
監督たちはセッターをやらせると言った。
それから及川は今まで以上に練習に打ち込むようになった。
ひたすら焦っている様子だった。
その焦りは練習試合で、今までにありえない回数のコンビミスとして現れた。
そして、
影山と交替した。