第8章 時の栞
「君は仕事で遠方に出掛けている君のお父上から、
我々新選組がお預かりしている。
君のお父上には我々も大変お世話になったからね。
だから君は我々にとって客人だ。
何も気兼ねする事なく、此処でのんびりと暮らして良いのだよ。」
近藤さんは優しく諭すように有希ちゃんに告げる。
有希ちゃんはまだ不安そうな目をしてたけど、それでも近藤さんの優しい笑顔に引き込まれるように少し笑って頷いた。
「我々の事はまた追々覚えていけばいい。
分からない事があれば何でも聞いてくれて構わないからね。
しかし、まずは君のその身体を癒す事が最優先だ。
我々は退散するから、ゆっくり休みなさい。」
近藤さんの言葉を合図に皆は立ち上がり、ぞろぞろと部屋を出て行った。
僕は一人残って、布団の中で所在無げに座っている有希ちゃんの前に屈み込んで顔を見つめる。
「……………あの……?」
「僕は、沖田総司です。」
「………沖田…さん?」
「そう。これから仲良くしようね。」
にっこりと笑う僕に、有希ちゃんも少し心を開いてくれたような笑顔で「はい」と答えてくれた。
「じゃあね。ゆっくり眠るんだよ。」
そう言って僕は部屋を出た。
部屋を出たって僕には行く所が無いって事に気が付いて
「あーあ……左之さんの所にでも転がり込むかなぁ………」
と一人ごちる。
別に悲しくなんか無いのに、僕の目には何故か少し涙が滲んでた。
ねえ……有希ちゃん。
僕達………もう一度、最初から始めようか?
君はまた、僕を好きになってくれるかな?
僕は間違い無くまた君を好きになるよ。
………だから、有希ちゃん。
お願い。
急いで僕を好きになって………。
了