第1章 4月の風が吹く頃
「貴方は…私と逢いたいとは思わなかった、ということですか…?」
つい口にしてしまった。
こんなことを言ったら気を遣わせてしまうと分かっていたのに。
私は俯きがちに相対する彼の表情を伺った。
「いいえ、私も逢いたかったです。」
口に手を添えて笑う姿を見ていると、鏡でもみているのか、そう思えた。
だけどどうしてか、夢か幻を見ているような気にはならない。
「ただ、どちらかが消えてしまうから…できれば逢うことは避けたかった、です。でも、 せっかく逢えたんですから今は楽しみましょう。」
私に微笑みかける彼の心情が私には痛いほど分かった。
口には出さなくても伝わってくる。
それは、きっと私たちが巡り会えたことの特権。
私の方を向いていた彼はふと桜の方に体を向け、歩き出した。
一歩、一歩と噛み締めるように。
その腕を私は取る
「どちらかが本物で、どちらかが偽物なら 私が消えます」
腕を取られた反動で後ろ、すなわち私を見る彼は軽く口を開けてぱちりと瞬きをする。
まるで、何を言っているんだと言われてるようで…私は瞬時に手を離して彼に必死で悪戯に笑いかける。
「なんて、冗談です」