第2章 02.紫と甘い香り
紫原side
放課後の陽泉高校。
室ちんが忘れ物をしたからといって教室に戻り、それを待っているときだった。
「あれぇ、なんかいい匂いがする~」
ほのかに甘い香りが鼻をかすめた。
大好きなまいう棒の袋を開けながら、匂いの元を辿る。
室ちん待ってなきゃだけど、いっか~
だって今までは、こんな甘い香り学校でしなかったし~
たどり着いた先には調理室の文字。
ガラッと容赦なく扉を開ける。
「わ~お菓子の匂いだ~」
調理室いっぱいに広がる甘い香りに思わず微笑む。
「え、あの・・・紫原くん?」
声のするほうを見ると、ちっちゃい子が困惑した表情で俺を見ていた。
見たことないけど、かわいいかも~
「あ~ごめんねぇ。お菓子の匂いがしたからさ~」
「クス・・・本当にお菓子が大好きなんだね。」
「ところで君だれ~?」
「あ、私は小春。赤橋小春だよ。紫原くんとはクラスが違うから知らなくて当然だよ。」
「ふ~ん。それ食べていい~?」
小春ちんの前の調理台に置かれる、カップケーキを指差す。
すると小春ちんは、明らかに戸惑い始めた。
「いいけど・・・でも、試作品だから・・・」
「いただき~」
小春ちんが言い終わる前にカップケーキを食べる。
口に広がる甘い香り。
しっとりとした触感。
もうひとつ食べると、今度はほのかに苦いチョコの味。
もうひとつ食べると、濃厚なチーズ。
もうひとつ、もうひとつと食べるたびに味が違い、
気づくと調理台にはカップケーキがなくなっていた。
「あれぇ?もうないの~?」
そんな俺を小春ちんは驚いて見つめていた。
「ちぇ。じゃぁ、ばいばい~ごちそうさま~」
「紫原くん!よかったらまた来て!」
「わかった~」
また、あんなに美味しいお菓子が食べられるなら来てもいいかな。
あ、室ちんから連絡来てる。
「室ちんお待たせ~」
「敦!どこ行ってたんだよ。」
「ん~甘いところ~?」
「・・・?なんか機嫌いいね?」
「ちょっとねぇ~」
なんだかわからないけど、誰にも教えたくなかった。