第9章 本当は【由布院】
「なぁ、俺と結婚しない?」
「……はい?」
煙が突然不思議なことを言い出すのには慣れていた。
でも、こんなこというのはこの数年の付き合いの中で初めてだった。
「なに言い出すの、突然」
「、俺は意外と真面目に言ってんだけど」
「自分で意外とか言っちゃう時点で、ね」
心臓が高鳴らなかったわけじゃない。
だって中学で出会って今日まで過ごしてきた日々の中で、気付けば彼に恋をしていたから。
そんな相手にプロポーズされて、何も感じない人間はいないだろう。
でも私は、どきりとはしたけど喜びもしなかった。
それもまた、ここ数年で学んだ彼の性格ゆえである。
「じゃあ参考までに理由を聞こうか、煙」
「んー、まずお前就職しそうじゃん?だから養ってもらえる」
こんなこと悪びれもせずによく言えるものだ。
堂々と自分は働かないことを宣言しておいてそれを悪いとも恥ずかしいとも思わない。
ある意味彼らしいといえばらしいのだが、人間として時々心配になる。
「はいはい、で?」
「親にいつか結婚結婚うるさく言われるのを阻止できる」
「あーよくあるやつね」
それなりの歳で未婚だと、親から孫の顔が見たいとか安心させてくれとか言われると聞く。
そもそも相手探しを面倒くさがりそうな彼にとって、その件は探さなくても近くに女子がいる今、中学時代に片付けたい問題だったのだろう。
「なるほど…最後は?」
「俺のこと1番面倒見てくれそうだから」
つまりこれまでの話を総合すると、要は私でなくても良いということだ。
私以外に、就職していて彼の面倒を見てくれる優しい女性がいたら彼はそれでも良いと言うのだ。
ほら、やっぱり。
期待するだけ無駄だった。