第3章 生徒会長【草津】
そんな中、眉女高の生徒会役員の1人がに近づき何やら耳打ちする。
それに頷いた彼女は、眉女高生徒会役員に何事か指示するとこちらに向き直った。
「草津会長、申し訳ありません。そろそろ時間らしいので、失礼させていただきます」
「あ、あぁ」
そう言って頭を下げる彼女をそのまま見送ろうとする草津だったが、ふと何か思い出したように視線を上げると、その背に声をかける。
「おい由布…!」
「っ!!」
振り向いた彼女は名を呼ばれたせいか頬が朱色に染まっている。
兄と区別するために呼んだのだが、そんな可愛らしい反応をされるとこちらまでその熱が移ったように熱くなる。
暫しそのまま見つめ合っていたが、用件を思い出した彼は動揺を悟られぬよう努めながら告げた。
「お前の兄はどうしようもない奴だが…お前のことは、その…気に入っている」
「……」
「だから、お前さえ良ければ…また会えないだろうか…2人で」
言い切った草津はそっとの様子を伺う。
彼女は驚きで目を見開いていたが、すぐに満面の笑みを浮かべて頷いた。
その笑顔は春のように愛らしく、温かい。
咲き始めの桜のように慎ましく、それでいて存在感のある。
彼女はまさにそれだと、草津は感じた。
そうして今度こそ去っていく彼女の背を見送っていると、
「おい」
突然背後から聞こえる声。
それは蚊帳の外にされていた兄、由布院のもので。
「なんだ。そのだらしない服装は今だけ見逃してやる。早く教室に…」
「お前、に惚れてんのか」
「なっ…!?」
相手への配慮も何もないストレートな質問に答えられずにいるとそれを了承と受け取ったのか、由布院はそうかそうかと1人頷く。
「そんなこと聞いてどうするつもりだ」
「別に?ただ俺たちは昔から仲睦まじい兄妹で有名だったから、今更お前にとられる気がしねぇなぁと」
「っ…そんなの、やってみなければわからないだろう!」
由布院からすれば草津の素直な感情の表れが面白くてからかっているだけなのだが、彼はそれを宣戦布告と受け取ったらしい。
「見ていろ、彼女をすぐに私のものにしてみせるからな!」
元々仲が良いとは言えなかったこともあり、ムキになる草津はそのまま踵を返し、由布院が後ろで笑っていることにも気付かず歩き去った。
そして、2人の恋は始まる