第2章 お金じゃ買えない【鳴子】
その言葉がきっかけで、私は彼と交流するようになった。
お金が全てと言い張る彼は鳴子硫黄と言うらしい。
同じ高校2年生と知ったときは驚いた。
彼は眉南高校に通いながら株で大儲けをし、その世界では名が知られた凄い人…らしい。
その通帳の金額は高校生のものとは思えなくて。
「……すごいね」
「まだまだですよ、私はもっと稼いでみせます」
お金の価値観以外は気の合う私達が、互いのプライベートまで知っていくのにそう時間はかからなかった。
私の家の事情を知った彼は儲ける秘策を教えようかと申し出てくれたがそれは丁重に断った。
株で大儲けするより、堅実に貯めていきたい。
そんな思いが根底にあるから。
「でもありがと、嬉しかったよ」
「……いえ」
「お金貸しましょうか、とか言ったら殴るとこだったから」
「それは流石に言いませんよ…でも困ったら頼って下さいね」
そう言って微笑んでくれた彼は非常に優しい人だ。
お金で性格まで変わってしまった父だったが、それはあの人の心が移ろいやすかっただけなのかもしれない。
一概にお金が全部の元凶とは言い切れないのだと、彼を通して知った。
「そんなにお金貯めてどうするの?」
「ありすぎて損をすることはありませんし、必要な時に必要なだけ使うつもりです」
「ふーん…鳴子くんに買えないものなんてなさそう」
その言葉を聞いた鳴子がふと私の方を見た。
今日は喫茶店で話していたので、目が合うとそれなりに距離が近くて緊張する。
鳴子もそうみたいだったから、互いに顔を見合わせることがあっても基本的には窓に映る相手を見ながら会話していた。
何とも変な2人組に見えたことだろう。
「?……どうしたの?」
「それが…お金では買えないものが欲しくなってしまいまして」
お金じゃ買えないもの。
今までお金が全てで、それで出来ないことなんてないと言っていた彼からそんな言葉が出るとは驚きだった。
「?何、それって」
俄然興味が湧いてしまった私は衝動のままに問いかける。
知りたいですか、と問われて思い切り頷くと、突然彼が私の方に身を乗り出した。
「っ…?!」
一瞬、額に感じた生温かい感触。
「私が欲しいのは…」
「あなたの心ですよ、さん」
あなたが好きです。
そう言った彼に、私は顔を赤くしながら彼を見つめることしかできなかった。