第2章 お金じゃ買えない【鳴子】
「やった、儲けた!」
「畜生!大損じゃないか!」
カジノ、競馬、宝くじ、そして株。
当たれば天国、外せば地獄。
「何が楽しいんだか」
お金なんて大嫌いだ。
コンビニのレジ打ちをしながら、毎日そう思っている。
私の父親は相当な博打好きで、お金が入るとすぐパチンコ屋に入り浸ったらしい。
それで生活が成り立つはずがなく、終いには父は借金をし始めた。
親に、兄弟に、友人に、繋がりさえあれば誰にでも。
それでも博打好きは治らず、会社も辞めた父は私達家族のことを考えなくなり、一日中パチンコをやっていた。
そして最後は大当たりしたのだろう、そこら中で飲んで忽然と姿を消した。
あの人は、
私達に借金だけ残していなくなってしまった。
そう母親がよく嘆いていたのを覚えている。
それからずっと母は働いていて、精神的にもストレスだったのだろう、過労で倒れた。
姉は現在結婚して家を出ており、少しだけれど毎月仕送りをしてくれている。
そして私もバイトが許される年齢になるとすぐに働き始めた。
出来るだけ時給がいいのを選ぶけどやはり高校生の時給。
お金を借りている親戚や父の友人らはゆっくりでいいよと言ってくれるけど、そんなに甘えたくなくて。
私達の人生を壊した、父親とお金がどうしても嫌いだった。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、いつもご苦労様です」
このコンビニの近所なのだろう、いつもここにやってくる高校生の来店を告げる自動ドアの開閉音で我に帰る。
挨拶するといつも丁寧に挨拶し返してくれる、礼儀正しい人だった
噂では株でとんでもなく稼いでいるらしい。
「ではこちらをいただきます」
「はい…540円です」
彼は1000円札で支払った。
小銭なんてはした金だと、持ち歩かないのだろうか。
「…楽しいですか、稼ぐの」
「は?」
思わず出てしまった言葉だった。
慌てて口を塞ぐけれど、それで言葉がなくなるわけがなく。
「ご、ごめんなさい」
目の前でぽかんとしている彼に謝るしかなかった。
自分の感情でつい鋭い言い方になってしまったので、気分を害したかもしれない。
「楽しいですよ」
「…え?」
「お金が全てですから」
そう答えた彼の瞳は輝いている。
君の言うことは間違ってないだろうけど、納得したくないんだ。
内心でそう呟きながら、答えてくれた礼と共にお釣りを手渡した。