第20章 彼が欲しいもの【高尾】
「あれ、九条ちゃん?」
結局大したことも思い付かず、いっそ知らなかったことにしてやろうかとまで思いかけていた放課後、教室で日誌を書いていたら部活終わりらしき高尾に会った。
「部活?お疲れ」
声をかければサンキューと返され、彼自身はもう帰るのか荷物を手にする。
「九条ちゃんも今帰り?いっしょにどう?」
一緒に帰宅するのは初めてではない。
今までも緑間含めた三人であれどちらかいないであれ帰ったことは何度もあったから、その行為に躊躇はない。
「ん、そうする」
それに帰宅途中で何か買って渡せるかもしれないなんて、未練がましく思ったりしていた。
しかしそんな願いも虚しく良い機会は訪れずに。
「じゃ、俺はここで」
他愛ない話をしながら歩いているうちに、いつも別れていた十字路に差し掛かった。
「…た、高尾!」
もう恥ずかしいとか言ってられない。
腹をくくって彼を呼び止める。
足を止めた彼に向き直ると、口を開いた。
なぜだか緊張して高鳴る胸の鼓動を、悟られないよう気を付けて。
「今日誕生日なんだね」
「あ?あぁ…まぁな」
「……な、何が欲しい?」
思わずはぁ?と聞き返してきた高尾を軽く睨みながらも言葉を続けた。
もう、こうするしか祝えないから。
「私、今日誕生日って知らなくてプレゼント用意できなかったから…何欲しい?」
説明すればなるほどね、と顎に手を当てる高尾。
様になるのが憎らしいがそんなことは今はどうでも良い。
彼が何を欲しがるのか。
まるで判決を待つ罪人のように彼の口が動くのを待った。
「………………で」
「え?」
ポツリと何か呟いた彼に今度は私が聞き返す番だった。
高尾は珍しく微妙に頬を染めながらこちらを見ている。
「だから…名前で呼んで、理央奈」
一瞬、理解が遅れた。
名前で呼ぶ、それだけで良いのだろうか。
けれど彼の表情は真剣そのもので、そこからでも彼が本気であることが窺える。
だからこそ……
「誕生日おめでとう、和成」
叶えてあげたくて。
この気持ちが何なのかわからない。
でも嬉しそうにありがとう、と笑う彼の姿を見ていると私も嬉しくなれた。
あなたが生まれたことに感謝します。
Happy birthday -kazunari takao-