第18章 遅くなったお祝い【緑間】
「あれ、緑間…今帰り?」
「む…九条か」
珍しく部活のなかったある日の放課後。
家に帰ってもすることがないからと教室で宿題をしていた時、アイツが教室に入ってきた。
九条理央奈。
今までクラスメイトでありながら1度も話したことのない人間の1人だった。
あまり表情を動かさない寡黙な女子。
その存在は帝光中時代、モデルをしていたチームメイトの周囲にいた女子や現在自分が所属しているチームの応援に来る女子たちとは違って浮いていて。
話したことがなくても、なぜか目を引く存在だった。
そんなアイツと俺が話すようになったのは、奴がバイトしていたスポーツ用品店に偶然行ったことがきっかけだった。
"真ちゃん真ちゃん、理央奈のとこ行こうぜ!"
あの日、2人の間で何があったのかは知らないが、高尾と九条は突然話すようになった。
否、高尾が一方的に話しかけているといったほうがいい。
そのテンションに度々ついていけないのだろう、彼女は俺に助けを求めるようになった。
「今日は部活ないんだ」
「まぁな」
「良かったら一緒に帰らない?途中まで」
「?…別に構わないのだよ」
彼女からの意外な誘いに面食らう。
正直意外だった。
人と関わることを好まない人物のように思えていた彼女が、自分から誘ってくるとは。
特に断る理由もないからと承諾したときに彼女が見せた安堵の微笑みが、やけに綺麗に見えた。