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短編集【黒子のバスケ】

第17章 太陽のような人【火神】


「…はぁ…」
「どうしましたか、九条さん」

こんな日にため息だなんて珍しいですね。
そう言って首をかしげる彼は本当に人をよく見ていると思う。

今日は彼氏である火神大我の誕生日である。
なるほどこれだけ聞けばめでたい日にため息なんて辛気臭いと思うだろう。

しかし私は今日だからため息をつくのだ。

「黒子くん、誕生日といえばさ、ケーキだよね」
「…まぁ、そうですね」
「大我もさ、誕生日には美味しいもの食べたいよね」
「…まぁ、彼の性格的にそうだと思います」

黒子くんの返答に再び溢れるため息。
まだため息の意味を理解していない黒子くんは、それがどうかしましたかと普通に尋ねてくる。
この理由を告げるのは正直女子として辛いのだが…黒子くんにはお世話になっているし、相談に乗って欲しいから私は恥を忍んで言った。

「彼、自分で美味しいもの作れるじゃない?」
「…あ、そういうことですか」
「はぁぁ…」

納得した彼はぽんぽんと私の頭を撫でる。
その優しさが今は逆に辛かった。

大我より料理が上手くないどころか、壊滅的な料理の腕を持つ私が彼を食事で喜ばせるなど不可能。
しかし私の中で彼へのプレゼントが料理と決まっているのにはある理由があった。

それは誕生日よりずっと前の、ちょっとした会話。

"なぁ、理央奈"
"なに?"
"俺、いつかお前の手料理食いてぇ"
"え"
"…ダメか?"
"うっ…そ、そのうちね"

捨てられた子犬のような切ない目で見つめられては断れない。
やったと嬉しそうに笑う彼に笑顔を返しながら、私は内心冷や汗をかいていた。

「火神くんに料理のことは言ってなかったんですか?」
「言おうとは、思ったんだけど…」

あれだけ嬉しそうな彼を見てたら言えなくて。
うなだれて告げたその言葉に、あなたらしいですねと黒子くんは微笑んだ。

窓の外には遅刻ギリギリで駆け込んでくる大我の姿。
そんな彼を愛おしく感じるも、今日だけは上手く話せる気がしなくて、私は再びため息をついた。
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