第16章 広い背中【青峰】
「じゃあここからは班ごとに自由行動な」
担任のその言葉で散り散りになる生徒達。
男女混じり合って散策に向かうその様子は高校生らしくてとても微笑ましいものだった。
私達の班を除いて。
「…俺達も、どっか行く?」
「面倒だしお前らで行けよ、俺は寝る」
折角気を利かせて提案してくれた男子の言葉を遮ったのは青峰大輝。
バスケの世界では名の知られた天才スコアラー。
その実態はバカでグラビア見るのが大好きなどうしようもない奴。
高身長で目つきの悪いこの男がこんなことを言ったら、さっき話した生徒が萎縮して話せなくなるのは当然で。
これ幸いと目を閉じる彼に、幼馴染みである桃井さつきが近づき説教を始めた。
桃井さんが同じ班だから青峰がまだどうにかなっている。
これで彼女がいなかったらと考えるとゾッとした。
新たなクラスで交友関係を手っ取り早く形成させようと教師陣が提案してきた今回の遠足。
近くの山までやってきて、山頂に辿り着いたのが10分前。
そこからは自由に行動し、集合は山の麓に6時間後だと告げられた。
そして冒頭に戻る。
青峰という異質な存在にすっかり怯えてしまった他の班員が哀れに思えた私は、桃井さんにある提案をしてみることにした。
まず各々下山して、麓で集合する。
その後は周辺を適当に歩いて集合時間まで時間を潰す。
「…っていうの、どう?」
「私は構わないけど…皆いいの?」
「青峰を下山させる手間省けるし余計な気を遣わせなくて済むし、良いんじゃない?」
そう言って後ろを振り返ると大きく頷く他の班員。
よほど怖いんだなと苦笑して、じゃあそういうことでと歩き出した。
その途中、桃井さんに怒鳴られて仕方なくといった風に起き上がった青峰とすれ違う。
軽く目を逸らして歩みを進めると、耳元で不意に囁かれた。
「…元気そうだな」
「お陰様で…同級生威嚇するのやめなさいよ」
「別にしてねぇよ」
互いに目を合わせようともしないまま離れる。
久しぶりにした会話が、意外と普通に終わったことに安堵した。
「九条さん!」
後ろから桃井さんに呼ばれて振り返る。
立ち止まると彼女は周りを気にするように声を潜めて問いかけてきた。
「…さっきはありがとう」
「別に。青峰がどうすれば面倒じゃないかはわかるから…元カノだしね」