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短編集【黒子のバスケ】

第9章 空に向けた言葉【黄瀬】


「あれ、九条さん、まだ残ってたんスか?」

そして渡せぬまま放課後になる。
下駄箱に入れて帰ってしまおうかどうか迷ったものの結局待って直接渡すことにした。
待つこと数時間、部活の終わった彼が教室に入ってくると、嬉しさと同時に緊張で鼓動が早くなる。

けれどそんなこと本人に言えるわけがなく、まぁねと軽く流すと黄瀬くんは納得したように鞄に荷物を詰め始めた。

「大変だね、人気者は」
「そんなことないっスよ、皆の気持ちが嬉しいッスから!」

なんて優しい人なのだろう。
鞄に入りきらないほどのプレゼントで持って帰るのが面倒だろうに彼は顔色一つ変えずにそう言い切る。

その姿を見つめていると、ふと動きを止めて、でもと黄瀬くんは呟く。

「どうしたの?」
「あ、いや…本当に祝って欲しい人からはもらえてないんスよね」

その時彼と目があった。
まっすぐな瞳は私の心を捉え、離さない。
誰について言っているんだろう、その人が好きなのかな。

そんな自分の想像に自分でショックを受け、思わず持っていた鞄を落とす。

「っ、あ…!」
「これ…」

その弾みで、中に入れていたプレゼントが転がり出てしまい、黄瀬くんの足元にまで行ってしまった。

「ごめん、黄瀬くん…!」
「これ、もしかして俺への誕プレッスか…?」

こんな渡し方したくなかったのに。
彼の手に渡ってしまったからには取り返すわけにもいかず、彼の言葉に頷くことしかできない。

「開けてもいい?」
「もちろん…気に入ってくれるか、わからないけど…」

ぎゅっと目を瞑って彼の反応を待つ。
紙が剥がれる音、箱が開く音、一音一音が静かな室内にやけに響いて聞こえた。

「…ピアス?」
「黄瀬くんお洒落だから…似合いそうだなって…」

街で見つけた時彼によく合うだろうと思ったのだ。
彼女でもないのにアクセサリーを送るなんて図々しいだろうかとも思ったが、これ以外の選択肢がその瞬間に消えてしまっていた。

「ありがとう、嬉しいッス」
「っ!…ほんと?」
「もちろんッスよ、だって…」


誰より欲しかった相手にもらえたんスから。


その言葉を理解して顔を上げると、そこには優しく微笑む彼の顔。
俺と付き合って、なんて囁かれた言葉を断るわけがなくて。

誕生日おめでとうの言葉と共に、ずっと空に向けて練習していた想いを、大好きな彼へと告げた。
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