第9章 空に向けた言葉【黄瀬】
朝から騒々しい室内。
ある生徒の机の上にはプレゼントが積み上がる。
それもそのはず。
6月18日。
それは黄瀬涼太がこの世に生を受けた日なのだから。
「黄瀬くん!お誕生日おめでとう!」
「黄瀬くん、これプレゼント!」
「皆ありがとっス!嬉しいっスよ」
たくさんの女子からプレゼントを受け取って笑う彼は、爽やかな笑顔を浮かべて。
途切れない女子の列に彼の表情筋もそろそろ疲れるんじゃないだろうかと思い始めたとき丁度良くチャイムが鳴り響き、担任の教師によってその列は強制的に崩された。
名残惜しそうにそれぞれの席へ、教室へと戻る彼女ら。
そしてその人達全員に手を振っている本日の主役を見比べながら、ずっと後ろに隠していた小さな箱を持つ手に力を入れた。
「渡せるかな、これ…」
同じクラスだからといって、必ずしも話す機会があるわけではない。
下手にこちらから話しかけると彼のファンクラブに目をつけられるので話しかけられるのを待つしかないのだ。
そんなどのくらいの確率かもわからないものに望みをかけて、ひたすらに黄瀬くんを見つめる私は側から見たらさぞ滑稽だろう。
自ら彼に話しかけ、誕生日を祝える彼女達がただただ羨ましくて、でも結局自分から行動は起こせなくて。
自分の席へと戻り持っていた彼へのプレゼントを机の中に隠す。
箱と共に添えられているバースデーカードの言葉を、また届けられないのだろうか。
帝光中のときから言いたくて言えなかった言葉を。
「好き…」
1人で呟く分には恥ずかしくもなんともない。
こんな予行演習を何度も空に向かってしてきていた。
流石に何年目か分からなくなると空も呆れたに違いない。
もう聞きたくないとでも言うように、空には雲がかかっていた。