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短編集【黒子のバスケ】

第8章 近くて、遠い【笠松】


「じゃあ新しい席はこういう順で!」

移動開始の合図と共に一斉に動き出すクラスメート達。
席替えで仲の良い友達と近くなったとか、先生の目の前の席になってしまったとかそれぞれ結果を報告し合う人々の中、ただ一人静かに荷物を移動させ、椅子に座る人がいた。

笠松幸男。

この度公正なるくじ引きで私の隣の席となった、男子バスケ部の主将である。

「よろしく、笠松」
「お、おう…」

これから暫く関わる機会もあるだろうと挨拶してみると、露骨に私から距離を取り、顔を背けて彼は頷く。
成る程これは噂通りの人だった。

笠松幸男

女子と関わることがとにかく苦手な、真面目な人である。

私達のクラスは席替えの際男女で列を定めない。
つまり男子ばかり、女子ばかりの座席ができる可能性があるということ。
そして幸か不幸か、私達の席の周りは女子ばかりで、笠松は完全に孤立していた。

今後の彼の苦労が容易に予想できる。
ドンマイ、と内心で呟き席に座ると、誰か席に不自由はないかと前で学級委員が話していた。
その言葉に笠松のような被害にあった女子や男子は次々に手を上げ、席を交換してもらう。

笠松も変えてもらうのかな、とちらりと横目で彼を見るが、手を挙げる気配は全くしない。
結局そのまま座席は決定し、彼は、この地獄とも呼べるだろう空間で過ごすこととなった。

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