第4章 その笑顔が好き【火神】
「……腹減ったぁ…」
「その台詞何度目ですか、火神くん」
「仕方ねぇだろ、減っちまったんだから」
昼までなんて待てねぇ、そうぼやく彼は時計を見る。
時刻は10時35分で、昼には程遠い。
授業中だろうが休み時間だろうが5分おきに時計を見てはため息をつく彼に私は近付き、あるものを差し出した。
「火神、あげるよ」
「あ?…え、いいのか?!」
「私作るの好きなだけだから、食べてくれると助かる」
差し出したクッキーの入った袋と私を交互に見た火神は、すぐにパッと顔を輝かせてクッキーを口に放り込んだ。
「ん、美味い!サンキュな、九条!」
そうやって目を輝かせる彼は本当に美味しそうに食べる。
(可愛すぎる…その笑顔は反則だよ)
そんなことを思ってしまうのも無理ないと思う。
彼は図体はデカイし見た目怖いのに、バスケをしてる姿は格好良くて、本来はこんなにも優しい笑顔を浮かべられる人なのだ。
「ど、どういたしまして」
なのに私は気の利いた言葉の1つ言えない。
可愛い女子高生ならここでもっと会話を弾ませて仲良くなるのだろうが、私にそんな度胸はなかった。
クッキーを渡すだけでどれだけ勇気を必要としたろう。
実際渡すときだって心臓はバクバクで、シミュレーションしていたのとは違う可愛げのない渡し方になってしまった。
時を戻せたらと後悔するも、火神が笑ってくれたからいいか、なんて思う自分は完全に火神大我という人間にベタ惚れだ。
「それにしても…」
「?」
「料理作れる女子っているんだな、この世の中」
「……へ?」
突然の発言に反応が出来ない。
そもそも内容がよく分からない。
混乱している私を見かねたのか黒子くんが火神の頭を教科書で軽くはたく。
「てっ!何すんだ黒子」
「火神くん、基本的に皆さん料理は出来ます。君の周りの人達が少し特殊なだけです」
その言葉で、そういえばバスケ部の監督をしている相田先輩は料理が苦手だという噂を思い出した。
彼らの様子から察するに、それは真実らしい。
「そ、そうか…悪いな、変なこと言って」
「別に気にしてない。それより、早くクッキー食べないと休み時間終わるけど?」
あぁ、私のバカ。
こんな言い方最悪じゃないか。
素直じゃない自分が恨めしい。
でも、口一杯にクッキーを頬張る彼は気にしてないように見えて、その姿にまた胸が高鳴った。
