第8章 閑話
何の前触れもなく、イタチ兄さんが歩き出した。
時々後ろを振り返りながら、歩くイタチ兄さん。
それはまるで、ついてこい、そう言っているかのようで。
わたしはイタチ兄さんのあとを追った。
道のりはなかなか険しいものだった。
木をつたって森を駆け、手足を使って、崖を登る。
そうしてついたのは、木の葉の街が渡せるところだった。
原作には出てこない、この世界の住人だけが知っている場所。
ここには何度も来たことがある。
イタチ兄さんのお気に入りの場所らしい。
静かで、かつ全体が見渡せて。
わたしもここは好きである。
そこに、ふたりが並び、里を眺めた。
「緋月がはじめて家に来たとき、礼儀正しい子だと思った」
唐突に始まった語り。
わたしは静かに耳を傾ける。
「しばらくたってもそれは変わらなかった。緋月は礼儀正しくて、どこかよそよそしかった」
よそよそしい、か。
「名前を呼んでくれたときは、すごく嬉しかった。今も、名前を呼ばれるたびに心が暖かくなる」
嬉しいこと言ってくれるね。
わたしだって同じなんだけど?
「わたしもイタチ兄さんに名前を呼ばれると嬉しいよ」
気持ちを伝えれば、イタチ兄さんは柔らかく微笑み返してくれる。