第16章 うちは一族虐殺事件
「あのさ、イタチ兄さん。イタチ兄さんはわたしを心配してくれてるんでしょ」
「ああ、そうだ。だからーーー」
「わたしだって同じ。イタチ兄さんが心配なんだよ」
「!?」
そんなに驚くことでもないだろうに。
目を見開いているイタチ兄さんに近づいていき、その頬に手を添える。
白くて冷たくて。
まるで血が通っていないと錯覚するかのような、頬。
ほら、やっぱり心配。
しばらくわたしの体温を分け与えるかのように、頬に手を添えていたが、イタチ兄さんが動く気配はない。
だからわたしはそのままの姿勢で続けた。
「イタチ兄さんはなんでも一人で抱えすぎなんだよ。自分のことは何一つわたしに話してくれない。そりゃあ、イタチ兄さんはわたしなんかいなくてもいいくらいには強いし、ぺらぺらと自分のことを喋ってもいいような立場じゃないことを分かってる。わたしが・・・たった9歳の幼い少女で頼りないってことも」
「・・・」
「でも、寂しい」
「寂、しい・・・?」
こくんと頷く。
「頼りないって分かってるけど、なにも話してくれなくて、頼ってくれないのは、信じてもらえてないのかなって・・・寂しい」
前世のせいで、見た目より遥かに年を取っているわたしだからこそ、頼ってもらえないのがつらい。
前は凄く力があって、みんなが頼ってくれてたから、余計。
「お願いイタチ兄さん。事情とかそういうのは話さなくていい。話さなくていいから、お願い、・・・わたしに背負わせて。わたしを・・・信じて」
言いながら、イタチ兄さんに正面から抱きついた。
背中に手を回して、体温を感じようとするが、服が邪魔しているのか、イタチ兄さんが冷たいのか、体温を感じることはできない。
それがひどくもどかしくて、さらに力をこめて、全力で抱きしめた。
いつまでそうしていたのか。
突然ぽつりと、「ありがとう」小さくそう聞こえ、わたしの体に、腕が回った。
そのときわたしはどんな顔をしていたのだろう。
だらしなく頬を緩めていたのか。
優しく微笑んでいたのか。
はたまた
無表情だったか。
わたしたちは、その後もしばらく抱き合ったままだった。