第16章 うちは一族虐殺事件
「ミユキおまえ・・」
ようやくわたしの存在に気づいたらしいイタチ兄さんが、呆然とつぶいた。
わたしはイタチ兄さんを振り返り、悪役のような笑みを浮かべる。
「わたしも一族の仲間、殺しちゃった」
共犯者だね、と声をたてて静かに笑う。
月明かりに照らされたその姿は、あまりにも場違いで、美しい、闇の精のようだった。
「ミユキ、お前は何も背負うな。この件はすべて俺がやったんだ。いいな」
そう言われたことに少なからず驚く。
こんな、一族を殺すなんてことをしているのに、一族の一員であるわたしをかばう。
わたしは一族の仲間だと思われていないんだろうか。
それとも。
わたしにもサスケに対するような気持ちを、イタチ兄さんがもっていてくれているのか。
どちらにしろ、それ以外にしろ、イタチ兄さんはイタチ兄さんだ。
無差別な殺人はしない。
そういうところは常識的。だと思う。
それが当たり前なのかそうでないかは、この世界での実戦経験が少ないわたしには判断しかねるが。
「あはは、イタチ兄さんはどこまでもやさしいね」
さっきまでの意地悪そうな笑みはなりを潜め、代わり、優しげな笑みを浮かんだ。
しかし、イタチ兄さんの表情は変わらない。
「大丈夫だよ。人を傷つけるのは慣れてるから」
人を殺したのは初めてだけど、と小さく付け加える。
人を傷つけると言っても、前世の話だ。
あのときのわたしにとって、殴る蹴るなどの暴力は日常のことだった。
もう、遠い昔の話だ。
「だめだ。ミユキに背負わせることなどできない」
「平気だよ」
「俺が許せない」
「もー、頑固だなぁ」
はぁ、とため息をつき、頭を搔いたわたしに、イタチ兄さんは分かってくれたと思ったのか、ふっと息を吐いた。
「ま、わたしも変なとこで頑固だから折れる気ないけど」
あくまで軽く、世間話をするような感覚でそう返す。
わたしの意に反して、場の空気が引き締まった。
イタチ兄さんは、さっきよりも格段に厳しくなった表情で、わたしを見つめる。
許さない、と態度で語るイタチ兄さんに、面倒くさいと、場にそぐわないのんきなことを思った。