第16章 うちは一族虐殺事件
いた。
イタチ兄さんだ。
何故かは分からないが、建物の屋根の上で、何をするでもなく、ただ直立している。
わたしに気づいていないのか、動かないイタチ兄さん。
しかし、交渉のためには気づいてもらわねばならないので、わたしはわざと気配を消さずに、イタチ兄さんに近づいた。
——…が。
イタチ兄さんはわたしを振り返ることなく消えた。
気づいて、いないのだろうか。
まさか、イタチ兄さんほどの忍が気づかないことなどあるのか。
「おい、ミユキ。追わなくていいのか?」
「………え?」
「あいつ、イタチ、また一族殺しに行ったんだろ。あのままほっといたら追っかけた意味、ねぇんじゃねえの?」
そうだ。
追わなきゃ。
追わなきゃ、交渉できない。
わたしは無言でイタチ兄さんの気配を探しだした。
——……
イタチ兄さんの気配を探ると、ひとつの家屋に入っていくのがわかった。
ちらっと後ろをみて、ルウさんが居ることを確認してからイタチ兄さんのあとを追う。
イタチ兄さんのあとを追い、中に入るとそこには予想通り
赤
それを見た瞬間。
わたしのなかで何かがはじけた。
…
気がつくと、わたしの手は肉を切り裂き、尊き命をむしり取っていた。
ああついに。
わたしは、人殺しになってしまった。
人の道を外れた。
罪のない人間を殺した、罪人になったのだ。
しかし
何故か
嫌悪感は襲ってこなかった。
わたしは禁忌を犯したというのに、ひどく冷静だった。