第16章 うちは一族虐殺事件
悪いことに、予感は当たっていた。
うちはの集落に入ると漂う、鼻のもがれるような血のにおい。
さらに、戸の開いている家に入ると。
そこには、血だらけの遺体。
遅かった。
イタチに交渉をする前に、もう事件は始まってしまったのだ。
わたしはきっと殺される。
もう、生き残ることは不可能だ。
自分の死を予期し、絶望するわたしに、ルウさんが追いついてきた。
「おい。ミユキ、これどういうことだよ」
血なまぐさいのだろう。
鼻から下を押さえている。
ルウさんは、わたしの近くに倒れている遺体を見て、そっと頭下げた。
「どうもこうもないよ。話したよね。うちは一族虐殺事件が始まったんだよ。もう、手遅れ。わたしは・・・殺される」
自分で話してて、なんか悲しい。
涙が出そうだ。
わたしは殺されるのか。
イタチ兄さんはきっと強い。
わたしなんか足下にも及ばないくらいに。
抵抗なんて無駄なんだ。
ただつらくなるだけ。
ならいっそーーーーーー
「ミユキ」
そっとかけられた声に、はっと我に返る。
「手遅れ、ってことはねぇんじゃねぇの?」
「え・・・」
「ほら、ここみろよ」
そう言って指したのは、床に広がる赤。
ルウさんがその端をちょこっと指ですくうと、それは指に付着した。
「この血はまだ乾いてない。感触からいっても時間はそう経ってないはずだ」
「ってことは・・・」
「そうだ。この事件はまだ始まったばかり。今から、そのイタチって奴を探せば、お前が生き残る道もあるってことだ」
・・・そっか。
まだ、わたしは生き残れる可能性があるのか。
なら、道はひとつだ。
「イタチ兄さんのところに行く」
「おう」
決意の言葉に返ってきた頼もしい返事とともに、わたしたちは、血ぬれた夜の集落を駆けだした。