第65章 星空
「おう、黄瀬こっち」
短い前髪にツンと立った短髪はいつも通りだ。
たった1ヵ月ぶりなのに、笠松センパイは以前よりももっと頼もしく感じた。
「コンチハ。どーしたんスかセンパイが呼び出しなんて」
ここは駅前のファミレス。
よく、練習後に皆で食事をした店だ。
週末の練習が終わった後、少しの時間でいいからと呼び出されていた。
席に座ると、店員がお冷とおしぼりを持ってくる。
窓際に立てかけられているメニューを手に取った。
「どうよ、新チームは」
センパイはそう言うなり大口でハンバーグを頬張った。
オレもセンパイと同じ、ハンバーグ定食を頼んだ。
食べ盛りの高校生には少し量が足りないか。
「早川センパイに聞いた方が早くないっスか?
……まあ、悪くないカンジっス」
「なんだ、それじゃ分かんねえだろ」
「まあまだ、噛み合わないトコばっかりっスね、正直」
「オマエみたいな問題児が居ない分、やりやすいだろ」
相変わらずの物言いだ。
今日はまだシバかれてないだけマシか。
「いや、居るんスよ問題児」
「ああ、あのマネージャーか?」
まさかの返しに、目を見開いてセンパイを見つめてしまった。
力のある眼光は健在だ。
「知ってるんスか」
「まあな、早川とか中村からメール貰ったりする」
「オレがモテるのがいけないんスよね……」
「バカ言ってばっかいねーでなんとかしろよ」
「イテッ!」
机の下から蹴りが飛んできた。
やっぱり痛いけど、なんだかこの感じも久しぶりだ。
「喜んでんなよ。ドMかオマエは」
「そうなんスよ……オレ最近みわに開発されて、新しい扉が」
再びゲシッと蹴りが飛んだ。
鍛えられた足から繰り出されるキックは、自由度の低い机の下でも威力抜群だった。
「IHまでにはどうにかなんのかよ」
「そっスねー……今はみわに任せっきりなんスけど……」
「ま、神崎ならなんとかすんだろうけどな」
「絶大な信頼っスね」
「オマエだって思ってるんだろ。神崎の直向きさと素直さ、努力と能力は人を惹きつける、ってのは」
「モチロン、分かってるっスよ」
何かを企むようなその表情も、久々だ。