第62章 卒業
「みわ、分かってないだろうと思ったし、ちょっとあの場で言うのもなって思ったから来たんスよ。
オレ、今日はもう帰るね」
時間的にももう遅い。
また明日から学校だ。
終業式までの数日だからラクなものだが。
「そっか……うん、分かった。また明日ね」
そんな、見るからにガッカリしないでよ……
帰り辛いじゃねぇスか……。
でも、これが普通の恋人同士だ。
今までああやって近くに居られたのが奇跡みたいな話ってだけで。
周りの大人達にも感謝している。
「じゃあね。おやすみ、みわ」
ちゅっと額にキスを落とした。
バサッと重いコートを羽織り部屋を出ようとした所で、裾を引っ張られている感覚。
「ん?」
みわが、下を向いてちょん、と裾を引いていた。
耳が真っ赤になっている。
「……みわ、お願いだから煽んないで」
みわは焦ったように顔を上げた。
「わッ、私、煽ってなんか……!」
その潤んだ目に紅潮した頬、濡れた唇。
どこをどう見たって……。
屈みこんで、ふわりと優しく唇を合わせた。
「……オヤスミ、みわ」
「……お休みなさい……」
キスすると、自然と次のステップにスイッチが入る。
流石に今日は……と自制し、足早に外へ出た。
「みわ、寒いからもう中に入んな」
「そこの角曲がるまで見てるだけだから……」
「冷やさないようにね。また明日ね、みわ」
「うん、お休みなさい……」
離れがたくなるような、寂しそうな顔をしてくれる。
「みわ、オレもすげぇ寂しいけど、みわに依存していた状態から卒業して、もっと自分を磨くっス」
「自分を……」
「だから待ってて、みわ」
みわに向かって拳を突き出すと、みわも同様に拳を合わせてくれた。
大好きな笑顔だった。