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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第62章 卒業





3月。

桜の開花時期までにはまだ暫くの時間を要し、吹きすさぶ寒風から春の訪れは遠く感じられる。

天気は晴天。
これから新しい世界へ巣立って行く彼らの背中を押すように、強い風が吹いていた。

本日は、3年生の卒業式。




我が海常高校の伝統、卒業式の日の朝には、卒業生の胸に在校生がコサージュを付けるという習慣がある。

本当は私も先輩方の胸にコサージュを飾りたかったけれど、やはりここはコートで長い時間過ごした選手達に譲ろうと思った。

バスケ部の3年生の中で一番早く登校した小堀先輩の胸には、中村先輩がコサージュを飾った。

私は、中村先輩の横で声をかける。

「小堀先輩、ご卒業おめでとうございます」

「ありがとう」

いつもの、優しい笑顔だった。



なんとしてでも森山先輩にコサージュを付けようとする早川先輩。

涙を呑み込んで笠松先輩の胸にコサージュを飾った涼太。

思い思いに先輩方の卒業を受け止める在校生達。

私はというと、実はまだ先輩方の卒業を受け止めきれていなかった。

楽しそうに話す彼らを見ているだけで、鼻の奥がツンとしてくる。

まだ、式も始まっていないのに。

こんな私が、いの一番に涙を流すわけにはいかないと、バスケ専用の体育館まで逃げるように走った。




きっと、もうひとつの体育館には式の準備がされているんだろうけれど、バスケ専用の体育館は、静かだった。

「はぁ……ッ」

鼻が既に詰まっているせいで、少し走っただけなのに息が切れる。

マクセさんの提案で、2月中は各自自分のレベルアップに勤しんだ。

私も、皆を支える立場として、知識だけではなく体力アップも見据えて頑張っている。

受験が終わった先輩方も練習に顔を出してくれ、久しぶりの体育館の雰囲気に、とても嬉しかったのを覚えている。

「……っ、く」

何も、悲しい事じゃない。
皆こうやって卒業していくんだ。

笑顔で見送るのが私達が先輩方に出来る最後の仕事なんじゃないのか。

分かっている。

吐いてまで練習した体育館。

倒れるまで練習した合宿。

勝った時には心から笑い、負けた時には悔しくて皆で泣いた。

ここには先輩方の3年間と、
皆の1年間が全て詰まっている。

ひんやりと冷えた体育館に足を踏み入れた。



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