第59章 すれ違い
涼太は、それから言葉を紡がない。
涼太の口の端が赤くなっている。
思い切り引っ叩いた時に、口の中が切れてしまったのかもしれない。
お腹の上に出された涼太の精液が部屋の冷気で冷え、下腹部が冷えてきた。
鼻水をすすり、ベッドサイドに置いてあるティッシュを何枚か取り、腹部を拭った。
「……お風呂、ちゃんと入ってね。私今日は、自分の部屋で寝るから」
それだけ言って、床に散らばった制服を拾い集め、いったばかりでふらふらした足をなんとか立たせて部屋を出た。
以前、涼太の全てを中で受け入れたいと、興奮した頭でそう考える事があった。
それは、一瞬の快楽の為の浅はかな欲望だった。
でも、みわを傷つけるような事はしたくないと、涼太に叱られた。
なのに、今日の涼太は違った。
「子どもを作ろう」と、ハッキリ言った。
私たちまだ、高校生なのに。
そんな事は不可能だってこと、ちゃんと分かっているはずなのに。
言いたいことがぐるぐると頭を巡ってばかりいて、言葉に出せない。
「涼太……」
セックスは、赤ちゃんを作る為の行為。
分かっている。
でも、愛を確かめる行為だとも思う。
涼太と肌を合わせるのは、言葉には出来ない安心感や快感がある。
涼太が私を愛してくれているのを、一番近くで感じられる。
さっきだって、それは変わらず感じられた。
涼太が、一時の快楽の為にしたんじゃないというのは、分かっている。
でも、彼が求めているものが見えなくて、気持ちがすれ違っている気がして不安で仕方がない。
涼太の部屋のドアが開く音がする。
良かった。
ちゃんとお風呂に入ってくれるみたい。
風邪引かないといいんだけど。
……どうして、こうなってしまうんだろう。
静かな自分の部屋で膝を抱えて、少し泣いた。