第59章 すれ違い
「黒子くん、わざわざ来てくれてありがとう。小説、お借りするね」
上中下巻、結構な重量だ。
ドラマ化だか、映画化だかの映像化も予定されているらしい。
ずっしりとした本屋のビニール袋を、痛まないように鞄の奥へしまう。
「はい。返すのはいつでもいいですから」
好きな作品の傾向が似ているというのは、貸し借りができていいな。
「雨……結構降ってきちゃったね」
「神崎さん、傘ありますか?」
黒子くんは、鞄から黒い折り畳み傘を取り出した。
「うん、大丈夫。……黄瀬くん、傘持って行ったのかな……」
「大丈夫なんじゃないですか。黄瀬君はそういうとこ、しっかりしてますから」
「そうだよね……」
そもそも彼は今日、どこに行ったのだろう。
なんだか元気がないようだった。
ここは駅前。
目の前の改札口に目をやると、突然の雨に、駅から出ず電話をするひとや、コンビニに傘を求めて入るひとが増えてきた。
結構な雨だ。
夏ならまだしも、この時期に濡れて帰るという選択をするひとは少ないだろう。
更に雨は強くなってくる。
ふと、駅前通りに目をやると、向かい側から歩いてくる見慣れた姿が視界に入ってきた。
「……涼太!?」
長い足に、黄色の髪。
今やそのどちらも、ずぶ濡れだった。
「黒子くん! 私帰るね、ごめんね! またね!」
思わず、走り出していた。
「"涼太"ですか……」
黒子くんの最後の言葉は、雨にかき消されて聞こえなかった。