第58章 すれ違い
涼太は、それから言葉を紡がない。
涼太の口の端が赤くなっている。
思い切り引っ叩いた時に、口の中が切れてしまったのかもしれない。
お腹の上に出された涼太の精液が部屋の冷気で冷え、下腹部が冷えてきた。
鼻水をすすり、ベッドサイドに置いてあるティッシュを何枚か取り、腹部を拭った。
「……お風呂、ちゃんと入ってね。私今日は、自分の部屋で寝るから」
それだけ言って、床に散らばった制服を拾い集め、ふらふらした足をなんとか立たせて部屋を出た。
以前、涼太の全てを中で受け入れたいと、興奮した頭でそう考える事があった。
それは、一瞬の快楽の為の浅はかな欲望だった。
でも、みわを傷つけるような事はしたくないと、涼太に叱られた。
なのに、今日の涼太は違った。
「子どもを作ろう」と、ハッキリ言った。
私たちまだ、高校生なのに。
そんな事は不可能だってこと、ちゃんと分かっているはずなのに。
言いたいことがぐるぐると頭を巡ってばかりいて、言葉に出せない。
「涼太……」
セックスは、赤ちゃんを作る為の行為。
分かっている。
でも、愛を確かめる行為だとも思う。
涼太と肌を合わせるのは、言葉には出来ない安心感や快感がある。
涼太が私を愛してくれているのを、一番近くで感じられる。
さっきだって、それは変わらず感じられた。
涼太が、一時の快楽の為にしたんじゃないというのは、分かっている。
でも、彼が求めているものが見えなくて、気持ちがすれ違っている気がして不安で仕方がない。
涼太の部屋のドアが開く音がする。
良かった。
ちゃんとお風呂に入ってくれるみたい。
風邪引かないといいんだけど。
……どうして、こうなってしまうんだろう。
静かな自分の部屋で膝を抱えて、少し泣いた。