第59章 すれ違い
「黒子くん!」
ファーストフード店……マジバーガーの前に、見慣れた水色の髪。
黒子くんだ。
手を振ると、小さく振り返してくれた。
「神崎さん、お久しぶりですね」
「うん、メールはしてたけれどね。あけましておめでとうございます!」
「おめでとうございます」
「ウィンターカップも、優勝おめでとう」
「ありがとうございます」
少し照れたような笑顔。
彼にしては珍しい。
「今年は負けないからね」
「はい。また海常と戦えるのを楽しみにしています。寒いですね。お店の中に入りましょうか」
「うん」
それぞれセットを注文して、窓際の席に着いた。
「神崎さん、雰囲気変わりましたね」
「えっ、そうかな?」
「はい。黄瀬君の影響でしょうか。なんと言うか……とても、柔らかくなりました」
「柔らかく……」
自分では自分が変わったなんて自覚、全くない。
「黄瀬君とは、うまくいっているみたいですね」
「あ、うん……お陰様で……」
暫く黒子くんがバニラシェイクを飲み、私もポテトをつまんでいた。
先に口を開いたのは、黒子くんだった。
「……好きなんです、ボク」
「え?」
「……こういう、落ち着いた時間が。なかなか、ないですよね」
「うん、そうだね。バスケやってると朝から晩までバタバタ」
「黄瀬君は、ふたりの時もあの調子なんですか?」
「えっ……」
彼の言う『あの調子』というのは、やはりいつもの、皆の前でのワンコキャラのことだろうか……?
ふたりきりの時が同じかって?
とんでもない。
全身から溢れ出る色気で毎晩毎晩……
『みわ』
『みわ、奥までオレを感じて』
『みわ……愛してる……』
「神崎さん?」
「わあ!」
「大丈夫ですか? 顔が赤いですが」
「だッ、大丈夫! で、何の話だったっけ?!」
黒子くんは呆れた顔でため息ひとつ。
「……まあ、いいです。……あ」
ふたりの真横のガラス窓に水滴がひとつ、ふたつ。
「雨、降ってきちゃったね……」
天気予報では言ってなかったのに。
涼太、折り畳み傘持って行っているかな。