第58章 すべて受け止めて
「ただいまぁ」
静まり返った廊下に向かって小さく言ってから、靴を脱いだ。
「涼太、お腹空いた? 何も食べてないなら何か作ろうか……」
そこまで言ったところで、涼太に抱きしめられた。
「あっ、え、涼太……?」
肩に回された腕に、力が入る。
「……抱きたい」
涼太の声が、熱を帯びている。
コート越しなのに、身体の熱まで伝わってくるようで。
なんて甘い、甘い声。
流れるように耳から入って、全身に染み渡る。
その声に、私の中心がひどく疼いた。
なだれ込むように涼太の部屋に入るなり、冷たい唇が重なる。
熱を奪い合い、与え合って啄むように角度を変えて何度も重なり合う。
涼太の熱い吐息がかかり、氷のように冷えた肌が溶けていくよう。
その熱がもっと欲しくて、貪るように唇を吸い合った。
「……ん、ンン」
冷たい指先が、火照る頬に当たって気持ちいい。
身体がどんどん熱くなっていくのが分かる。
「……みわ、さっきは乱暴にしてごめん」
そう言いながら、手はゆっくりとコートを脱がしていく。
「……怖かった……けど」
重い音とともに、コートは床に落ちた。
「でも……涼太、私がSariさんと仕事場に突然来たこと、怒ってたんだよね。ごめんなさい、怒られて当然だと思う」
涼太は、自分もコートを脱ぎながら目を見開いた。
「いや、怒ってたわけじゃなかったんスけど……」
「……え」
ワンピースの背中のファスナーが下ろされ、ふぁさりと足元へ落ちる。
気付けばあっという間に、下着姿だ。
「それって」
「ゆっくり、話させて。……オレ、何も隠さないから」
また、ふわりと唇が重なる。
既に先ほどまでの冷たさはなく、熱く、濡れていた。
それは、長い長い夜への合図。
全部受け止めたい。
受け止めて欲しい。
こんな風に思うのは、涼太にだけだよ。