第56章 信頼のかたち
入れて貰ったお茶を持ってコタツに入ると、コタツ布団が濡れていることに気付いた。
「あっ、涼太そこ……ごめんなさいお茶こぼしちゃって」
「珍しいっスね。ま、そのうち乾く乾く」
ポンポンと軽くはたいて、特に気にも留めずにお茶をひと口。
しかし、コタツというものはどうしてこうも眠気を……。
ブーッ! ブーッ!
「わぁ!」
ウトウトとし始めた途端、テーブルに置いていたスマートフォンが振動しまくり、文字通り、ふたりは驚いて飛び跳ねた。
結果的に目覚ましの役割を果たしてくれたけど。
「……ビックリしたっス……」
「すごい振動だね……」
画面に表示されてるのは姉ちゃんだ。
女だらけの気まま旅行は終わったのか。
「モシモシー? 姉ちゃん?」
『あ、涼太? 帰ってきたよ!』
「あーうん、おかえり」
『お土産あるから、みわちゃんと来なさいよ』
「えぇ……寒いんスけど……」
『何言ってんの! 彼女といるのにゴロゴロしてるとかあり得ないでしょ! おいで! 皆で待ってるから!』
電話の向こう側ではもうひとりの姉と母があれやこれやと盛り上がっている声。
黄瀬家の女性陣はどうしてこうもマイペースなのか。
……いや、オレもか。
血だな。
「お姉さんたち、帰ってきたんだね」
「そうみたいっスよ。お土産取りに来いって……」
「お邪魔していいなら、……行く?」
「うん、そっスね……」
「疲れちゃった?」
オレを覗き込むその唇にキスしたい。
キス……したい……。
……Sariからどういう風に話を聞いたのかは分からないけれど、拒否されないだろうか?
昨日聞かせてくれたみわの気持ちは疑っていない。
ただ、彼女に嫌な思いをさせたくない。
左手の人差し指で、反射的にみわの柔らかい下唇に触れた。
……今はこれが、キスの代わり。
みわは恥ずかしそうに優しく微笑んだ。
それ以上、オレたちの距離が縮まることはなかった。