第9章 衝撃
え、ええ!
まさか色々教えてっていうの、嘘だった?
「みわっち、寝よ? オレ疲れたっスわ」
……あんな練習量なら当然だ。
もはや彼には勉強をする気なんてまったくないらしい。
ま、まさか本当に泊まることに!?
「う……わ、分かった……寝よう……」
……私は早くも観念した。
黄瀬くんの性格からして、もうここまで来たら帰るという選択は出来ない気がして。
テーブルをどかして、借りてきた布団を敷こうとしたら、黄瀬くんが手招きしている。
「みわっちは今日、こっちっスよ」
ベッドを指差す黄瀬くん。
まさか、彼の寝床まで占領するわけにはいかない。
「あ、ううんいいよ、ベッドは黄瀬くんが使って」
「うん、そーなんスけどね。よいしょ」
「っきゃ!?」
歩み寄ってきた黄瀬くんは、突然私を……お姫様抱っこした。
「うわ、軽……」
「ちょ、ま、ええっ!?」
慌てふためいている間に、背中に感じたのはスプリングの感触。
「ちょっと、ちょっと黄瀬くん、ベッドは黄瀬くんが使ってって」
「うん、そうっスよ。使うってば」
そう言って、黄瀬くんもベッドに入ってきた。
「え、あの」
オロオロしていると、黄瀬くんとの距離がどんどん縮まって……優しく抱き締められた。
「あの……」
「ん? どうかしたっスか?」
「これじゃ腕、痺れない……?」
これは所謂、腕枕状態。
顔が近い。近すぎる。
何、一体これはなに?
「全く問題ないっスよ。眠れそう?」
問題、大有りだよね?
もう思考がぐるぐるだ。
……でも、暖かい。いい香り……黄瀬くんのにおい。
伝わってくる心臓の鼓動が、少し速い。
トクン、トクン。
ドキドキしているけど、不思議と安心感の方が勝っているような気がする。
どうして?
自分の気持ちが、コントロール出来ない。
戸惑っているうちに、身体から力が抜けて、眠気が訪れようとしているのがなんとなく分かる。
うそ。あんなに眠れなかったのに。
「……ありがとう、黄瀬くん。眠れそうかも……おやすみ、なさい」
「そっか……よかっ……た……オレも、ねむ……」
そう言って彼は一足先に夢の中へ。
本当に疲れてたんだね。
私も、昨日はあんなに眠れなかったのに、黄瀬くんの寝息を聞いていたら、間も無く睡魔がやってきた。