第53章 初詣
「お、終わった……」
壮大なテーマ曲とともにエンドロールが流れる。
もう何年も前の映画なのにスリリングなシーンではビクビクし、涼太の部屋着を引っ張りまくった。
……ちょっと裾伸びちゃったかな……
「はは、みわ結構怖がりなんスね」
「だってあの、車の中で襲われるシーンとか怖すぎて……」
意志を持った恐竜達が暴れ回るとか現実では絶対にあり得ないのに、もし自分が遭遇したら、なんて余計な妄想をするから無駄に怖い。
知能が高い恐竜が一番ゾッとした。
ああ、怖かった。
「最新作、映画館まで観に行きたいっスか?」
「う……興味はあるんだけど、これで3Dとか来られたら倒れるかも……」
涼太がまたあははと笑った。
この穏やかな空気が楽しい。
そろそろSariさんを起こしてこなくちゃ。
時計を見上げようとして涼太と目が合った。
あ
キス されそう
優しい目をした涼太の顔が近付いて来て、ちゅっと優しく唇が触れた。
いつもの、柔らかくて温かい唇。
顔を優しく撫でてくれる大きな手。
唇はすぐに離れた。
あ……
終わっちゃった……
がっかりしているのを悟られないように急いで立ち上がる。
「あの、起こしてくるね」
「あぁ、そうっスね。オレ行こうか?」
「ううん大丈夫!!」
また涼太を近付けたら、今度は何するか分かったもんじゃない!
コンコンとノックをすると、「はぁい」と気の抜けるような返事が返ってきた。
「Sariさん、具合はいかがですか?」
「あぁ、いい感じ。普段薬飲まないからすぐ効いたのかもなぁ」
赤く虚ろだった目もしっかりしている。
大丈夫そうだ。
「一応これで熱測ってみて下さい」
「うん、ありがと〜」
電子体温計を腋に挟む仕草ですらなんだかキレイ。
ついつい、そんな目で見てしまう。
涼太と並んだ時に、どう見えるかを。
ピピッ
「ん、平熱」
「回復早いですね……」
「新年から悪かったわねぇ。ありがと」
「あ、明けましておめでとうございます」
「え……あぁ、あけおめ……あっはっはっは! みわちゃんって面白いねぇ!」
「え、何か面白い事がありましたか?」
新年の挨拶をしてこんなに笑われたのは初めてだ。
部屋中にSariさんの笑い声がひたすらに響いた。