第42章 休日の過ごし方
「……みわ、どうしたの? 嫌になっちゃった?」
「……」
「みわ、ちゃんと言って?」
涙を拭うその指1本すらも。
「……すき」
「……ん?」
「……好き……好きだよ、涼太。大好き。ありがとう。私を助けてくれて……ありがとう」
涙が勝手に溢れてきて、止まらない。
後半は声が擦れてしまって、音にならない。
「それはこっちのセリフ。ありがとう、みわ。オレ、誰かの特別になるなんて、出来ないと思ってた。本当のオレを見せる事が出来るヒトがこうして一番近くにいてくれるなんて、夢にも思ってなかった」
涼太の言葉は、聞いているといつも心臓がきゅーっとして、切なくなる。
「……そんな……私、涼太に何も返せてない。少しも、返せてないよ……」
会話の合間にまた、唇が重なる。
なんて甘いのだろう。
どんなお菓子よりも、果実よりも甘くてこころの奥から溶かしていく。
「そんなことないっスよ。オレ十分、みわから貰ってる」
丁寧に髪を梳く指が、優しくて。
守られてるって実感する。
「……私なんか、幸せになっちゃいけない、絶対に幸せになんかなれないって、そう思ってた。でも、今が凄く幸せで。しあわせ……っ、ぐす」
「泣いていいんスよ、みわ。今までずっと、ひとりで頑張ってきたんだから。もう、ひとりで泣かないで」
その言葉でタガが外れてしまった私は、声を上げて泣いた。
身体を犯されて、心まで犯されて。
誰も信じてくれる人がいなくて。
私も、誰も信じることができなくて。
誰にも言えなくて、苦しくて。
夢に見ては、吐いて。
でも、これは仕方がない事だと思ってた。
この事態を引き起こしたのは全部私のせいなんだ。私が弱いから。
だから、そんな私が幸せになろうなんて考えること自体が、おかしいんだ。
一生、あの男の奴隷みたいな扱いをされて、身体を売られて、生きていくんだってずっとそう、思ってた。
それなのに。
涼太が、世界を変えてくれた。
私がひとを愛してもいいんだって、幸せを感じて生きていいんだって、そう、教えてくれた。
「……私、涼太のためなら、死ねるかも」
「ヤメテ。縁起でもないっスわ」
涼太の目にも、涙が溜まっていた。
ふたりで、泣きながら笑った。