第82章 夢幻泡影
「……で、いつまで泣いてんだよ」
「すみません、泣いてません……」
泣いてないんだけれど、涙が止まらない。
うう、何言っているんだろう……。
「タオル、汚してしまってすみません……洗ってお返ししますので、今日はお預かりしても良いですか」
柔らかい柔軟剤の香りまでもが、よしよしと慰めてくれているようで。
選手にこんな気を遣わせてしまってどうするの。
「いや、俺今日それ使うしそのままでいいよ」
「えっ」
そう言えば、これを私が持って行ってしまったら、閑田さんが使うタオルがなくなってしまう。
しかし、鼻水までは出ていないけれど、涙で汚してしまったタオルをそのままお返しするわけにもいかず……。
「あの、じゃあ……申し訳ないのですが、今日は私のタオルを代わりにお渡しするというかたちでも良いでしょうか」
「みわのタオル?」
「は、はい、まだ今日は使っておりませんので」
「……うん、分かった。そうしよ」
少しだけ考えた後に、閑田さんは快諾してくれた。
申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど、今はこれ以上の案が見つからなくて。
「荷物の中にあるので、取ってきます」
「んじゃちょっと俺も体育館戻って、コーチに練習の事話してくるわ」
「あっ、コーチと監督には全てお話を通してあります、閑田さんはこのまま体育館手前のトレーニングルームに移動してください」
「……」
「あっ、でも何か確認したい事があるのでしたら、体育館に寄って頂いても問題ありません」
強引に話を進めすぎてしまった事に反省した。
突然話を持ち出されて、閑田さんも困惑しているだろう。
「みわって、なんか流されそうな感じに見えるのに、そういうトコあるよな……」
「そういう、所、ですか?」
え?どういう所?
時々、同様の事を涼太にも言われるけれど……私ってやっぱり、変人なんだろうか。
閑田さんは、なんでもないと言ってそのままトレーニングルームへと向かって行ってしまった。