第81章 正真
蝉の大合唱に包まれながら、冷えた麦茶を喉に流し込む。
グラスの表面に浮かんだ水滴のように、額からは次々と汗が噴き出してきた。
汗を止めたいなら冷えた飲み物を飲むのは逆効果なのに……ついつい、目先の爽快感を優先してしまう自分に反省だ。
厳しい夏がまた、やってきたんだなぁと痛感。
「お祝いなんていいって、言ったのに……」
「なぁに言っているの。大切な孫の成人祝いなのに」
翌週、おばあちゃんに声をかけられて、私はおばあちゃんの家に帰って来た。
久しぶりの空気。
すっかり馴染んだこの家、やっぱり落ち着く。
おばあちゃんも元気で過ごしているようで、安心した。
おばあちゃんは、家に帰ると本当に嬉しそうにしてくれて……もっと時間を沢山作って、いっぱい会いに来なきゃ。
久しぶりの美味しいご飯の後に、プレゼントにと貰ってしまったのは、立派な万年筆……きっと、凄く高かったんじゃないかと思う。
少し濃いめの青で、艶があって……知識のない私でも分かる、高級感。
手に馴染むようなフィット感に、いつまでも文字を書いていられそうな気すらする。
「おばあちゃん、ありがとう。こんなに素敵な物、買って貰っちゃって……」
「沢山使ってくれたら、ばあちゃんはそれだけで満足だよ」
きっと、大人になれば使う機会も増えるんだろう。
本当なら、自分で揃えなくちゃならないのに、いつまでも甘えてしまって……反省だ。
「それより、お誕生日は黄瀬さんに沢山お祝いして貰えたみたいで良かったわねえ」
「んぐっ、う、うん、いっぱいお祝い、して貰っちゃった……」
楽しかった素敵なデートから、濃厚な夜まで一気に思い出してしまい、麦茶が変なところに入った。
忘れもしない、素敵な素敵な誕生日だった。
想い出が、どんどん増えていく。
これからも、いっぱい増えていくかな。
なんて嬉しいんだろう。
おばあちゃんから貰った万年筆は、涼太から貰ったペンケースに入れておこう。