第78章 交錯
「とにかく、今は横になって!」
「う、ハイ」
みわの並々ならぬ迫力に圧倒されて、あっという間に片付けられ、久々に姿を現した布団の中へ潜り込む。
「スポーツドリンク、あるかな……」
どうやら足がつった時には水分補給が良いらしく、スポーツドリンクを求めてみわは冷蔵庫を開け……また固まった。
……冷蔵庫、何が入ってたっけ。
そう言えばこの間、ヨーグルト買ったな。りんご入ってるヤツ、もう賞味期限切れてそうだけど。
あとは、お気に入りのミネラルウォーターと、いつものスポーツドリンクと、センパイ達がこの間来た時に残ったビール(オレは飲めないってのに、ヒドくないスか!?)くらいか。
思えば、食糧が何も入ってないな。
撮影で弁当が出る事もあるけど、普段はとにかく眠くて、玄関でバタリ……が多かったし。
みわは、無言のままスポーツドリンクを注いだコップを持って来てくれた。
「ありがと」
「……うん、私、ちょっとお買い物行ってくるね」
そんなのいいからここに居てよ……とも言えず。
みわだって食べるモンが何もない。
申し訳ない限りである。
「お、お願いするっス。みわも食べたいモン、好きに買ってきて。はい、これ」
「ありがとう。借りるね」
財布と鍵を渡したけど、みわはそっとテーブルに財布を置いて、出かけてしまった。
怒ってる。みわ、絶対怒ってる。
空気がコワイ。
そりゃそうだよな、電話で話す時には調子いいことばっかり言って、フタを開けてみればこの不摂生ぶり。
幸いにも、この先のモデルの撮影はまだほとんど声がかかってないし、少しセーブしよう。
シーズンオフだからと、詰め込み過ぎは良くない。
分かってるのに、気ばかりが焦る。
みわが、遠く離れた所にいってしまうのではないかとか、嫌な想像が邪魔をする。
落ち着け。
急ぐと良くないみたいなことわざもあっただろ。