第77章 共栄
「さむ……」
朝だというのに、窓の外はブルーグレー。
暑いのは得意じゃないけれど、夏の日差しが懐かしく思える……冬空。
天気予報では、今日は雪になるかもしれない、と言っていた。
クリスマスイブに雪……聞いたことはある、ホワイトクリスマスになるのかな。
首都圏では交通が麻痺してしまう可能性の方が高いから、手放しでは喜べないけれど……ちょっとだけワクワクしている自分がいる。
だって、ふたりきりで過ごせるクリスマスは初めてだから。
ちらりとキッチンにある置き時計に目をやって、オーブンを開いた。
「やった、成功!」
練習に練習を重ねたクッキー。
本当は、頑張ってケーキを焼こうかと思っていたのだけれど、涼太が今日は街に出たいと言うので、持ち歩けるクッキーにしたんだ。
サンタさん、ツリー、長靴、雪だるま……冬にぴったり。
今回は焦げなかった!
せっせと袋詰めをして、ラッピング。
涼太が迎えに来てくれると言っていた時間まで、あと1時間半。
急いで準備しなくちゃ。
涼太用の袋とは別に、少し小さめの袋にクッキーをいくつか入れて、廊下にあるドアをノックした。
「はーい」
「あき、ちょっといいかな?」
「いいよん」
ドアを開けると、同じ間取りのはずなのに、私の部屋とは全く違う空間。
色彩はモノトーンで統一されていて、でもあちらこちらに置いてある物達は、可愛くてカラフルで……紛れもなく女の子の持ち物だ。
きっとこれが、男性が足を踏み入れてドキドキする【女の子の部屋】なんだろう。
物が全然なく、生活感がない私の部屋を思い出して、少し反省のため息。
……と、そうじゃなくて。
「メリークリスマス、あき!」
「あー何? いい匂い」
「クッキー焼いたの。良ければ」
「さんきゅー、嬉しいわ。あ、これあたしからね〜メリークリスマス」
思いがけず、手渡されたのは黒くて光沢のある紙袋。
「わ、嬉しい! ありがとう!」
中、見てみようかな。お部屋に戻ってからにしようかな。
そんな事を考えてたら、あきが怪訝そうな顔でテレビに目をやった。
「これさ……電車止まってんじゃない?」
「え?」