第76章 清新
「はッ……は、はぁ」
荒い息をその美しい唇から漏らし、肩の筋肉がしなやかに隆起し、割れた腹筋が前後する。
……きれい……
彼の動きと同期して、身体が痺れるような快感が送り込まれてくる。
涼太が奥まで入って来やすいように、彼がもっと気持ち良くなるようにと、私は無意識のうちに腰をゆらゆらと揺らしていた。
「りょうた……きもち、いい……」
ぼんやりした頭で考えるのは、目の前のひと……涼太のことだけ。
どうして、こんなひとが、私と……。
今まで、沢山の事があった。
お母さんの恋人に犯され続けて、でも涼太と出逢ってようやく前を向けると思った矢先に、あの事件があって……。
でも、私は今まで一度も自分を"不幸だ"なんて思った事がない。
男たちに犯されたのは"現実"で"事実"だけど、それ以上でもそれ以下でもなかった。
深く考えた事はなかったけど、無意識のうちに自分を守ってたのかな。
これで、自分が"不幸なんだ"って自覚してしまったら、とてもじゃないけどここまで……涼太に出逢うまで頑張って来れなかったと思う。
それと同時に分からなかった感覚。
"幸せ"って何か。
このひとに出逢って、初めて知った気持ち。
胸が、押し潰されそう。
好き。
大好き。
こんな言葉じゃ表せないくらい、大切なひと。
左手がジンと痺れる。
鼻がツンと痛い。
「あッ、あ……ん、涼太……っ」
「気持ちい? 良かった、オレも」
ゆるりと癒すように重なる唇。
とろりと唇の間で交わし合う体液。
ぽろりと瞳から熱いものが零れて……。
あったかい。
止まらぬ抽迭に、お腹の奥の底の方から大きな波が来るのを感じる。
「ん、んぁ、だめ……待って涼太、あの、気持ちよすぎて……」
「イッちゃいそ……?」
涼太の優しい声色とは対照的に、結合部からは、ぐぷりぐぷりと絶え間無く届く音。
「や、また私だけ、やぁ、あ──……っ」
いつか見た大輪の花火のように、様々な色が目の前で散っていくようだった。
いつまでも焼き付いているのは鮮やかな、黄色。